一人一票実現のためのインタビュー企画 第5回 ベロスルドヴァ オリガ弁護士

第5回 ベロスルドヴァ オリガ弁護士

弁護士 ベロスルドヴァ オリガ 先生:
2017年 慶應義塾大学法学部卒業。同年司法試験予備試験合格(ロシア出身者初)。2018年司法試験合格(ロシア出身者初)。2019年弁護士登録。ポールヘイスティングス法律事務所勤務。伊藤塾勤務。東京大学大学院法学政治学研究科・法曹養成専攻(2021年3月卒業予定)
 今回お話をお伺いしたのは、弁護士のベロスルドヴァ オリガさんです。
きっかけは、弁護士ドットコムのオリガさんについての記事に、「大学1年のときに特別講義で伊藤先生が、『一票の格差』について講演されたのですが、聞き入ってしまう自分がいました。それまでの人生の中で、初めてのことでした。」と記載されていたことです。この記事を見て、オリガさんにとって『一票の格差』とは何か、その講演のことなど是非直接お話を伺いたい!との思いが募りインタビューの申し込みをさせていただきました。ロシアの選挙制度についても教えていただきました。インタビュアーは、大学生の頃から熱心な1人1票実現サポーターである平井孝典弁護士です。

弁護士 平井 孝典 先生
2010年立命館大学法学部卒業。2014年慶應義塾大学法科大学院修了。司法試験合格。2015年弁護士登録。法律事務所フロンティア・ロー所属。

 インタビューを行った6月は、新型コロナウィルス感染拡大の懸念があり、残念ながら今回はオンラインによるインタビューとなりました。

投票価値の不平等の問題に気付いたきっかけ

平井:私が一人一票実現国民会議で活動を始めたのは学生時代です。きっかけは、ある国政選挙でした。その選挙では、15万票の得票で当選した人が、60万票の得票で落選した人に対して「あなたは国民から選ばれなかった」と発言していました。この発言に強い違和感を持ったのがきっかけです。選挙では、多く得票した人が当選し、国民の代表として国会で法律をつくるべきなのに、“一票の格差”があることによって、それが実現していない。民主主義としておかしいと思いました。

オリガ:私も学生時代に問題を知りました。小林節先生(憲法)の授業の中で実務家の方の話を聞く授業があり、そこで伊藤真先生(※ 弁護士・伊藤塾塾長。本企画(第4弾)にご登場いただいています。)の話を聞きました。講義の中で投票価値の不平等への言及があり、”一票の格差”を初めて意識するようになりました。2015年、大学1年の時です。

平井:伊藤弁護士の話で特に印象に残ったことは何ですか?

オリガ:私には日本の選挙権はありませんが、選挙権を有する方が1票投票したら1票の価値が実現されているとばかり思っていたので、あの講義で自分の常識が覆ってしまい、まずそれが驚きでした。当時は、憲法の学習を始めたばかりで、この問題に対する意識がそれほど高くありませんでしたが、授業の中で映し出されたデモ行進の写真は強く印象に残っています。

(写真)20181128最高裁大法廷弁論(1人1票裁判(2017衆))
前列左から伊藤弁護士 升永弁護士 久保利弁護士2列目0.6票君としんさ君の間に平井弁護士

 また、問題意識をもって何かを変えたいという時に、持っている問題意識を市民と共有し、共感を得ながらみんなで変えていくという、伊藤先生の力の凄さに圧倒されました。話の仕方も飛びぬけて上手で、話の導入や展開など、人に話すときの伝え方の重要性を実感しました。

平井:0.6票君のキャラクターや市民の草の根運動の部分ですね。まさに、1人1票実現運動の中心は、草の根運動です。私も学生の頃は、毎日大阪環状線の駅を1つずつ回って、メッセージの入ったティッシュを配ったり(駅活のサポーター活動チラシ: https://www2.ippyo.org/pdf/20101115001.pdf)、ツイッターなどSNSで発信したりして、草の根活動に力を入れていました。(平井さんが2011年1 月11、14 日の2 日間、母校で特別講義を行った時のサポーター活動報告はこちら⇒ https://www.ippyo.org/topics/2011030301.html

(写真)母校で特別講義を行う平井さん

オリガ:そういう活動が今に繋がっている部分もあると思います。市民の活動を起点とする社会情勢の変化が、裁判所の判断に影響を与えることもありますから。

ロシアの選挙について

平井:ところで、オリガさんは、ロシアで選挙権をお持ちなのですね。ロシアの選挙について教えて頂けませんか。

オリガ:ロシアは85の連邦構成主体(共和国・自治州・自治管区といった民族区分による)から成る連邦国家で、議会は国家院と連邦院の2院に分かれています。国家院は日本で言うと衆議院のようなもので、日本と同様に、小選挙区と比例代表の併用制です。国家院の450名は、小選挙区225名・比例代表225名から成ります。日本の衆議院定数が465なので議席数も近いですよね。
 みなさんの関心があるのは小選挙区の方だと思いますが、小選挙区では、まず、全有権者を225で割って、議員一人当たりの基本人口数を算出します。それから、各連邦構成主体の人口に比例して議席配分がなされます。例えば、モスクワ市の場合15議席です。連邦国家の成り立ちから、連邦構成主体を跨って議席を分配することは出来なくなっています。また、各連邦構成主体に少なくとも1議席が分配されることになっています。このような仕組みの中では、完全な一人一票は難しく、投票価値の差は生じています。ただ、日本に比べるとその差は小さく、許容されるのは基本人口の70%~130%。つまり、最大でも2倍弱です。日本で言われている3倍だとか、6倍だとかにならない制度になっている他、より大きな選挙制度の問題を抱えていることもあり、ロシアでは、投票価値が不平等だという主張は聞いたことがありません。

平井:その人口差についてですが、日本の投票価値はかつての『衆議院・3倍、参議院・6倍』から少しずつ縮小されてはいるものの、現在は、『衆議院・2倍、参議院・3倍』と、まだまだその差は大きくあるのですが、それについてどう思われますか?

オリガ:一票の格差の問題については、理想と現実の両面から考える必要があると思います。民主主義国家における理想はもちろん、全ての投票価値が完全に同じになることです。他方、今回このインタビューのお話をいただき、ロシアについて調べた上で、お話ししていますが、日本は連邦制でもないですし、インフラ設備や経済の状況を踏まえても、物理的に1人1票が不可能とは思いません。現実的にも、限りなく一人一票に近づけることは可能な環境だと思います。実際に、最高裁の判決を起点として衆議院小選挙区の一人別枠方式を形式的に廃止したり、参議院選挙で鳥取県と島根県が一つの選挙区になったりと少しずつ改善されています。しかし、選挙制度を国会自らが定める旨規定する憲法47条の下では、どうしても改善されにくいという構造的な問題を抱えているのも事実です。
 ところで、ロシアでは、比例代表制の225名選出の制度がむしろ問題となっています。少なくとも5%得票しないと議席がもらえないという、議席を得るための得票のボーダーライン制度です。例えば、プーチン大統領は圧倒的な支持を得ていると思われがちですが、50%以上の得票をしているかといえばそうではないのです。仮に得票が48%又は49%しかなかったとしても、ボーダーラインである5%に満たないX政党への投票が当選者に均等に割り振られる制度になっていて(X政党への投票は無いものと扱われてしまいます。)、その割り振られた得票分を加算した結果、52%とか53%を得票した、過半数以上を得票した、と見えてしまうのです。
 ロシアでは1人1票への問題意識よりも、ボーダーライン以下の政党への投票が切り捨てられてしまい、自分の意見(投票)が全く反映されずに政治が動いているところに問題意識があります。ボーダーラインの5%を、7%に上げたり、また5%に戻したり、そもそもボーダーラインを無くすべきではないか?という議論がむしろ多いのです。

民主主義における1人1票の必要性とは-自治意識が根底に

平井:それでは、なぜ一人一票なのか?民主主義における一人一票の必要性について、オリガさんのお考えをお聞かせください。

オリガ:やはり、自分の国では、自分の意見が尊重されてこその民主主義だと思うので、政治において、最終的に、自分の意見が実現されていなくても、その結果に至るまでのプロセスが重要だと思っています。今、大学に戻って、労働法に関する研究論文を書いているところなのですが、団体交渉においては、労使間で合意に達するということが重要な目的の一つです。しかし、それと同時に適正な交渉過程(プロセス)が担保されていることを重視している学者の意見も多く、選挙についても、最終的に自分の意見(1票)が結果に結びついたか否かのみを重視するのではなくて、意思決定のプロセスにおいて、自分の意見が他人と同等に考慮されることを担保することこそが重要なのだと思っています。

平井:民主主義においては、国民、各個人の意見が、同じ価値で、適正に考慮されるというプロセスが重要であるというお考えですね。
 これまで1票の格差の問題は、平等論で議論されてきました。しかし、私たちは、平等論ではなく、民主主義が意思決定のルールとして多数決を採用する以上、選挙は1人1票等価値でなければならない、という「多数決論」を主張しています。国民主権という以上、立法権、行政権、司法権の国家権力のすべてに国民の多数の意思が反映される必要があります。多数の国民が選挙で国会議員の多数を選び、国会が内閣総理大臣を選び、内閣総理大臣が他の大臣を選んで内閣を組閣し、内閣が最高裁判所長官と他の裁判官を選ぶ、これによって国民の意思が3権に適切に反映されます。ところが、入り口である選挙で国民の多数が国会議員の多数を選出できないと、このシステムが崩れてしまう。だからこそ、国会議員の多数意見と国民の多数意見が一致していなければならず、そのためには、1人1票が実現された選挙が必須と主張しています。

オリガ:国民の代表者による国家権力の行使に国民が納得するには、国民がその代表者を正当に選んでいることが必要、これが民主主義の基本だと思うんです。国民は国会議員が作った法律に原則として拘束されますが、誰が法律を作るかは、国民が決める、ということが根幹にあると思います。日本においては、一票の格差と並ぶ重要な問題として「投票率の低さ」があります。その原因にはもちろん、現代社会の複雑さに起因する政治的無関心(アパシー)の問題があげられますが、このような社会だからこそ、現代日本社会の根幹たる選挙制度の意義が、より多くの方々に理解される必要があると考えます。また、その際の大前提として、選挙制度自体が瑕疵のないものであるべきなのではないでしょうか。

平井:ロシアにおける選挙運動や主権者教育はどのような状況ですか?

オリガ:ロシアと比べると、選挙運動については、日本の選挙の時の選挙カーは独特だと思います。ロシアにおいては、政党や候補者の情報は、日本以上に、テレビやマスコミの報道から得ることが多いです。あとは、両親から学ぶことが多いのではないでしょうか。選挙期間中は、家族によっては政策について議論したりすることもあります。

平井:それでは最後にもう一つ質問させて下さい。仮に、オリガさんに日本での選挙権があるものの、自らの1票の価値が他の人よりも低かったとして、どの程度までなら許せますか?0.8票とか、0.6票の価値だったら、どう思われますか?

オリガ:そもそも私は日本において0票なので、それはよく分かりません。ただ、私が日本で0票であることは、私の出自によるものであり、アイデンティティーと密接に結びついているのも事実です。同様に、もし、日本国籍者の間で1票の価値が違うとなると、国民としてのアイデンティティーにも関わってくるのではないかと思います。

平井:全く同感です。この運動が、民主主義や国民主権の学びの場となって、一日も早く日本で1人1票が実現するよう、これからも頑張っていきたいと思います。オリガさん、今日は貴重なご意見をお聞かせいただき、大変有難うございました。そして、これからもよろしくお願いいたします。

【おまけ】
 日本で初めて、ロシア国籍で日本の司法試験に合格されたオリガさん。社交ダンスのプロとしても活躍されていると聞いています。限られた時間の中で、物事に“本格的”に取り組むことは容易ではありません。そのモチベーションの維持の仕方を伺いました。

オリガ:「三木浩一先生(現慶應義塾大学大学院教授)の「道が2つあった時は、難しい方の道を選べ」という言葉が支えになっています。簡単な道を選んだ人は、時がすぎて「あの時、難しい方の人生を選んでいたらどうだったろう?」と後悔することになるのだそうです。そして、もう一人影響を受けているのが伊藤真塾長。夜間講義に参加していた頃、塾長が「さっき沖縄から帰ってきました」「北海道から到着したばかりです」などの挨拶から始まることが度々あって、塾長のバイタリティを思うと、自分の忙しさは大したことないと思えるようになりました(笑)。弁護士を務めながら社交ダンスなんて無理だよ!ってなりそうですが、気持ちがあれば出来るんですよね!」

オリガさんのバイタリティ、そして実行力はすごいです!お話を伺いながら、私たちもオリガさんを見習ってますます頑張らねば、と気持ちを新たにしました。オリガさん、今日は貴重なお話と刺激を有難うございました!

第1回 鈴木富七郎弁護士
第2回 井戸謙一弁護士
第3回 山口邦明弁護士
第4回 升永英俊弁護士
久保利英明弁護士
伊藤真弁護士
第5回 ベロスルドヴァ オリガ弁護士

コメントはこちらへ!

*
*
* (公開されません)

Facebookでコメント

Return Top