1人1票裁判(2024衆院)

一人一票(参院)裁判


判決骨子

2024年10月27日施行衆院選(小選挙区)(本件選挙)に関する1人1票裁判が始まりました。
今回の裁判でも、全289小選挙区で原告が立ち、選挙日の翌日(10/28)に、全14高裁・高裁支部で一斉提訴されました。
国は、「1人別枠制」の廃止を要求した平成23年、同25年、同27年大法廷判決に基づき、平成28年改正法(人口比例配分方式とはいえ、一人別枠制の亜種ともいえるアダムズ方式採用)を成立させました。
前々回(2017年)選挙と前回(2021年)選挙は、そのアダムズ方式が不完全なまま施行された選挙となり、最大格差はそれぞれ、1.979倍及び2.079倍でした。
本件選挙は、完全な形でアダムズ方式による再選挙区割りがなされた選挙区割りで行われましたが、最大格差は、2.06倍となりました。

【今回の裁判で最も注目したい点】
 憲法は投票価値の平等を保障しているにも拘わらず、2020年国勢調査人口による再区割りの段階で、敢えて、既に「1.999倍」もの不均衡を生じさせる区割りを作成し、本件選挙日には「2.06倍」の不均衡が生じた本件区割りは、平成28年改正法により改正された新区画審設置法3条1項(「その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が二以上とならないようにすることとし」)の趣旨・目的に適合していないと判断するか否か。

過去の1人1票裁判

→ 一人一票(2009衆院)裁判
→ 一人一票(2010参院)裁判
→ 一人一票(2012衆院)裁判
→ 一人一票(2013参院)裁判
→ 一人一票(2014衆院)裁判
→ 一人一票(2016参院)裁判
→ 一人一票(2017衆院)裁判
→ 一人一票(2019参院)裁判
→ 一人一票(2021衆院)裁判
→ 一人一票(2022参院)裁判
一人一票裁判とは?

平成30年、令和5年大法廷判決

 平成25(2013)年及び平成27(2015)年判決では1人別枠廃止後・抜本的な改正前の較差2倍超の選挙を違憲状態としました。平成30(2018)年判決は、改正法(アダムズ方式)が成立後の選挙時の最大較差が1対2未満(1.98倍)の選挙を合憲としました。令和5(2023)年判決は、アダムズ方式の完全履行の格差2倍超(2.08倍)の選挙を留保付で合憲としました。
 本件選挙は、アダムズ方式完全履行でもなお選挙当日に最大較差・2.06倍でした。従って、これまでの最高裁判例に照らして本件選挙は違憲である、と解されます。

選挙制度改革でも日本だけが立ち遅れ(英、独、米、仏、韓と比較して)

 2025年5月3日(憲法記念日)の一人一票実現国民会議の意見広告でも示されたとおり、世界標準は”人口比例選挙”です。
 例えば、英国(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの国(Country)の連合王国)の場合、2011年改正法で、各選挙区の有権者数は、全国の選挙区平均有権者数の95%以上105%以下でなければならないという厳格な基準が設けられ、現在、全650選挙区で、全国平均である73,393人の上下5%以内との要件が満たされいます(但し、島嶼部5つの例外選挙区(注1)あり)(One for One Times 20240401号参照)。
 英国では、議員1人あたり有権者数差は、最大7,338人の差(英国)であり、英国は、概ね、人口比例選挙です。
 また、英国、日本同様、議院内閣制であるドイツ(小選挙区比例代表併用制)は、全議席は(比例代表への)第2票の得票数によって決まるので、完全人口比例です。
 大統領制を採る米、仏、韓も、大統領選は完全1人1票(人口比例選挙)です(ただし、米国は概ね人口比例選挙)。

 2025年7月参院選も、1票価値の格差3倍が続きます。総務省発表令和6年9月有権者数でみると、議員1人当たりの有権者数差は最大で63万9689人の差(参院選)になります(2025.5.3意見広告参照)。
 英国の場合の7,338人とは二桁違います。
 このように議員1人当たりの有権者数に約64万人もの差がある日本の選挙は、極めて異質、異常です(川人貞史元衆議院議員選挙区画定審議会会長・東京大学名誉教授『日本の選挙制度と1票の較差』(東京大学出版会 2024)215頁)。
 日本は、経済成長同様に、選挙制度改革においても、世界に大きく立ち遅れています。

本件選挙

本件選挙の各選挙区の有権者数及び投票価値の一覧表&全国マップ

下表のとおり、本件選挙当日では、地方の各選挙区間で最大較差が生じていました。
議員1人当たり有権者数の最大差は、北海道3区鳥取1区の間の、23万6976人の差(衆院選)(最大較差、2.06倍)です。
 1票の格差は地方間で生じているというのが事実です。

原告の主張

 全国弁護士グループによる1人1票裁判(2024衆)の口頭弁論は、広島高裁岡山支部(2024年12月19日)を皮切りに全14高裁・高裁支部で開かれました(最終は福岡高裁の2025年1月20日)。
 選挙裁判は、100日裁判と言われ、提訴後100日以内(2月5日)に判決を行うという規定がありますが、提訴から100日以内の判決は岡山支部だけでした。
 各弁論(各30~50分間)では概ね以下の主張が口頭でなされました。

【原告の主張】 

① 国難:全世界のGDPに占める日本のシェアは1995年の17.6%から2023年には4.0%激減した(2024年11月石破首相所信表明演説参照)。一人当たり平均賃金も、6か国(日米英仏独韓)の中で日本だけが成長がない。日本は、歴史上2回しかない(鎌倉時代の)元寇、(幕末の)ペリーの開港(国)要求よりはるかに大きな国難に直面している。

② 行政の長を選ぶ選挙でいえば、上記6か国のうち、日本だけが非人口比例選挙である。
  他国同様、人口比例選挙の国になり、他の5かカ国と同じ土俵に乗ることが国難克服の第一歩である。

③ 統治論: 「投票価値の不均衡の是正は、議会制民主主義の根幹に関わり、国権の最高機関としての国会の活動の正統性を支える基本的な条件に関わる極めて重要な問題」である(平成26年大法廷判決の多数意見を構成する5判事の補足意見)。

④ 日本が非人口比例選挙であることも、他の5か国に比べて投票率が圧倒的に低い理由といえるのではないか。

⑤ 米国(レイノルズ判決)でもそうであったように、「憲法は人口比例選挙を要求する」旨の最高裁判決で、人口比例選挙は実現する。同旨の判決は既に高裁レベルで8つ出ている。

⑥ 投票価値の不平等を生じさせる合憲性の立証責任は国側にある。同旨の高裁判決も既に5つ出ている。

⑦ 憲法学の権威・故芦部信喜教授の2倍許容説については、格差が4倍、5倍(当時)の現状を前提とした説であり、芦部教授自身も、京極純一東大教授との対談(1980年)で京極教授が「芦部説の場合、最大限度が2倍ということでしょう。できれば1対1が一番いいということですね」との問いに対し、「もちろんできればそれが一番望ましいわけです」と述べている。格差が2倍まで改善されている現在であれば、芦部教授は1対1の立場であろう。

⑧ 平成25(2013)年及び平成27(2015)年判決では1人別枠廃止後・抜本的な改正前の較差2倍超の選挙を違憲状態とした。平成30(2018)年判決は、改正法(アダムズ方式)が成立後の選挙時の最大較差が1対2未満(1.98倍)の選挙を合憲とした。令和5(2023)年判決は、アダムズ方式の完全履行の格差2倍超(2.08倍)の選挙を留保付で合憲とした。本件選挙は、アダムズ方式完全履行でもなお選挙当日に最大較差・2.06倍だった。従って、これまでの最高裁判例に照らして本件選挙は違憲である。

⑨ 国会の裁量と信託理論:憲法は前文で「そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであって・・・その福利は国民がこれを享受する。」と定める。信託の考え方は、信託法8条(「受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない」)が基本となる。
 国会議員は、投票価値の平等からの乖離の憲法上の許容限度の問題について利害関係者であるので、当該問題について合理的な立法裁量権を有し得ない。

* 升永ブログをご参照下さい
  https://blg.hmasunaga.com/2024/12/03/post-24639/

被告(国)の主張

高裁判決(一覧)

裁判所 弁論期日(2024-2025) 判決期日(2025) 判決文
札幌高裁 12/25(水)13:30 2/12(水)15:00 合憲
仙台高裁 12/27(金)14:30 2/28(金)14:00 合憲
仙台高裁秋田支部 12/26(木)15:00 2/19(水)13:15 合憲
東京高裁 1/23(木)15:00 2/13(木)15:00 合憲
名古屋高裁 1/17(金)14:00 2/19(水)14:00 合憲
名古屋高裁金沢支部 1/29(水)11:00 2/26(水)13:30 合憲
大阪高裁 12/23(月)11:15 2/12(水)14:30 合憲
広島高裁 12/20(金)14:30 2/21(金)14:30 合憲
広島高裁岡山支部 12/19(木)14:30 2/6(木)15:00 合憲
広島高裁松江支部 1/10(金)13:30 2/26(水)11:00 合憲
高松高裁 1/14(火)14:00 2/26(水)13:10 合憲
福岡高裁 1/20(月)14:30 3/7(金)14:00 合憲
福岡高裁宮崎支部 1/24(金)13:30 2/21(金)11:30 合憲
福岡高裁那覇支部 1/14(火)15:45 2/18(火)15:00 合憲

最高裁弁論

弁論は開かれませんでした。

最高裁判決

最高裁(二小)判決は、令和7年9月26日(金)15:00に指定されました。
今回も14:00に最高裁正門前でサポーター行進があります。
お時間の許す方は是非ご参加下さい。

傍聴整理券配布の締め切り時刻は、14:10です。
(傍聴券の配布は最高裁南門にて)

当日の予定(暫定案)は、下記チラシをご参照下さいませ。
当日の予定は今後変更される可能性があります。

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