一人一票(2019参院)裁判

一人一票(参院)裁判

判決全文 判決骨子 個別意見要旨 多数意見要旨
2019年7月21日施行参院選(選挙区)(本件選挙)に関する1人1票裁判が始まりました。
今回の裁判でも、全選挙区(45選挙区)で原告が立ち、選挙の翌日(7/22)に、全14高裁・高裁支部で一斉提訴されました。
裁判の進捗状況などは、こちらのサイトで随時ご紹介させていただきます。
さて、前回選挙では3.08倍の1票の不平等がありましたが、3年を経て今回の選挙までに、国会はどのような改善をしたのでしょうか?
結論から言えば、前回(2016)選挙からの改善は、ほぼなかったと言っても差し支えないと思います。
前回選挙(1票の最大較差・3.08倍)について、裁判所は—-
高裁段階では、14裁判体のうち9の裁判体が違憲状態であると判断しました。
しかし、最高裁(平成29年大法廷判決)は、平成27年改正法で、①参議院創設以来初めて2つの合区を行ったこと、さらに、②同改正法の附則に、次の(2019年)選挙までに、更なる是正を行い必ず結論を得る旨の定めがあることを評価し、当該選挙の時点で合区が一部にとどまっていたとしても、同改正法の附則で更なる是正の「立法府の決意」が示されていたことを考慮して、違憲に至っていないと判断しました。
ところが、平成29年大法廷判決後国会が成立させた平成30年改正法は、平成27年改正法附則の「さらなる是正の決意」とは裏腹に、選挙区については、埼玉選挙区を2議席増員させた以外は以前の選挙区のまま一切手を加えることはありませんでした。従って、1票の最大較差も、ほとんど改善がありませんでした(3.08倍から、2.984倍になったのみ。)
さらに、平成30年改正法では、平成27年改正法に定められていたような、立法府の更なる是正の指向を表明する附則すらなくなっています。
平成29年大法廷判決は、合区が一部にとどまっていたとしても、平成27年改正法が更なる是正を指向する決意を定めていたことを考慮して、違憲判断を回避しました。しかしながら、平成30年改正法には、平成27年改正法にあったような、立法府の更なる是正の指向を表明する附則は定められていません。
仮に、1票の不平等・3.08倍を生じさせる平成30年改正法が国会の参院選挙制度改革の最終回答であるとするならば、平成29年大法廷判決の判断基準に沿って判断すれば、更なる是正の表明を欠いた平成30年改正法の下の本件選挙では違憲判断を回避する考慮要素は見当たらないので、最高裁は、違憲と判断する以外にありません。
国が前回選挙後に1票の不平等解消のための方策をほぼ何もとらなかった結果、
本件選挙で投票価値が一番低かったのは、宮城県選挙区で、0.34票 でした(但し、福井県を1票とした場合)。
国は、なぜ、宮城県選挙区の国民の1票の価値を、福井県選挙区の国民の1票の価値に比べて0.34票分にしたのか、合理的な理由を立証しなければなりません。
最高裁は、その合理的な立証なしには、違憲と判断するしかありません。(昭和51年大法廷判決、他)

高裁判決(一覧)

裁判所 弁論期日(令和元/2019年) 判決期日(令和元/2019年) 結果
札幌高裁 9月12日(木)15:30 10月24日(木)13:10 (全文) (要旨)
仙台高裁 9月24日(火)14:30 11月5日(火)14:30 (全文) (要旨)
仙台高裁 秋田支部 9月17日(火)10:00 10月25日(金)14:00 (全文) (要旨)(骨子)
東京高裁 9月20日(金)14:00 10月30日(水)16:00 (全文) (要旨)
名古屋高裁 10月1日(火)13:45 11月7日(木)16:00 (全文) (要旨)
名古屋高裁 金沢支部 9月24日(火)11:00 10月29日(火)11:00 (全文) (要旨)
大阪高裁 9月19日(木)14:00 10月29日(火)13:15 (全文) (要旨)
広島高裁 9月25日(水)15:30 11月13日(水)15:00 (全文) (要旨)
広島高裁 岡山支部 10月8日(火)11:00 10月31日(木)14:00 (全文) (要旨)
広島高裁 松江支部 9月30日(水)14:10 11月6日(水)14:00 (全文) (要旨)
高松高裁 9月11日(水)15:00 10月16日(水)13:30 (全文) (要旨) (骨子)
福岡高裁 10月2日(水)14:00 11月8日(金)15:00 (全文) (要旨)
福岡高裁 宮崎支部 9月27日(金)15:30 10月30日(水)15:30 (全文) (要旨)
福岡高裁 那覇市部 9月25日(水)14:30 11月13日(水)14:00 (全文) (要旨)


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本件選挙の各選挙区の1票価値全国マップ


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本件裁判

本件裁判で注目しているのは、以下の5点です。

国は、1票の不平等は地方利益の保護のためであるとしますが、本件選挙で、例えば、宮城選挙区、新潟選挙区の投票価値は福井選挙区の0.34票分です。(全国の1票の不平等マップはこちら

本件選挙(参)の1票の不平等は3倍です。現在の衆院のそれは1.98倍です。ですから、本件選挙は、1票価値の平等の憲法の要請に関しては、衆参で差異がない、との最高裁判例に反します。

本件裁判は、「違法判断の基準時」である選挙当日の1票の不平等が違憲かどうかのピンポイントの判断を求めています。ですから、裁判所は、将来の国会の努力とは独立して、まず、ストレートに「違法判断の基準時」の選挙の合憲性を判断することが求められます。

憲法研究者の多くは、本件選挙は「違憲状態又は違憲」の意見だと推察されます(45人の学者の論文)。他方、「合憲」の意見と推察される学者の方が2人おられます。(上告人準備書面(1)同準備書面(3)ご参照ください。

2011年西岡参議院議長が9ブロックの具体案を党会派に提出(同案での最大格差は1対1.066)。

今回、参院選の1人1票裁判の判断が初めてとなる最高裁裁判官は7名。

過半数(8名)の裁判官が「投票価値の平等の憲法の要請に関しては、衆参に差異はなく、憲法は人口比例選挙(1人1票)を要求している」と意見されれば、日本は、1人1票の真の民主主義国家になります。

原告の主張

下記リンク先のPDFをご参照下さい。

【高裁】
訴状
原告準備書面(1)
原告準備書面(2)
原告準備書面(3)
甲1~56~910~1819~2223~3334~4041~484950~51甲52
証拠説明書(1)証拠説明書(2)

【最高裁】
上告理由書
理由要旨
準備書面(1)
準備書面(1)の【要旨】
【辻村みよ子教授意見書(甲97)】
【辻村教授略歴・著作】
準備書面(2)
準備書面(3)
甲53~70甲71~85甲86~9294~96甲93甲98~103104~110111~118
証拠説明書(3)証拠説明書(5)証拠説明書(6)

被告(国)の主張

下記リンク先のPDFをご参照下さい。

【高裁】
答弁書
証拠説明書

【最高裁】
被上告人意見

最高裁弁論

最高裁大法廷弁論は、令和2年10月21日(水)13:30に指定されました。

朝日新聞(9/30)で山本庸幸元判事のインタビュー記事が掲載されました。
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14640374.html
メディアの関心もこれから高まっていくと思われます。

傍聴できる人数が通常より削減されていますが、感染対策を講じて傍聴が可能です。

当日の予定は今後変更される可能性があります。

当日の予定(暫定案)は、下記チラシをご参照下さいませ。

【チラシを拡大】

【最高裁大法廷弁論レポート】

最高裁大法廷弁論期日:令和2年10月21日(水)午後1時30分。
快晴。暖か。

 午前中は山口邦明弁護士グループの弁論が行われ、午後1時30分から、全国弁護士グループの弁論が行われました。

 コロナ禍ということもあり、サポーターの皆様の傍聴はいつもより少なかったのですが、原審原告代理人の弁護士の方々が全国から集まり、いつもどおり、意気揚々と弁論に臨まれました。

 最高裁判所構内は、大法廷と同じフロアにある最高裁の正面玄関からの広い通路部分や長椅子のソファやテーブルが置かれている大きなガラス窓に面した待合室の大きな空間は立ち入り禁止にされていました。
 傍聴席は一人置きで座るように席の間が開けられ、使用禁止の椅子の背もたれには白いビニール袋がかけられていました。

 原審原告側からは、升永英俊弁護士、久保利英明弁護士、伊藤真弁護士、原告本人、の4名が陳述されました。

 原告本人の方の弁論の模様が、東京新聞桐山桂一論説委員の私説で報道がありました。
web記事はこちらhttps://www.tokyo-np.co.jp/article/65822?rct=opinion&fbclid=IwAR2HogQKEUNCjxV4guK16AJf9dcT5sToYo4_1w0KFMKWiJxc7I7h8VVL6ZQ

 原審被告側からは、武笠圭志指定代理人が陳述されました。

 弁論内容は、下記をご参照くださいませ。

 弁論後、霞が関の司法記者クラブで記者会見が行われましたが、今回はコロナ感染拡大予防のため、原告側で記者会見に参加したのは、代理人弁護士5名のみとなりました。
 

【弁論の内容】


升永英俊弁護士
(クリックで「弁論の要旨」全文へ)
升永英俊弁護士:

 憲法の投票価値の平等の要請は、衆参で差異はない(平成24年、26年大法廷判決)。
 本件選挙の最大較差・3.00倍は、衆院の1.98倍と比べ劣後している。従って、本件選挙は違憲である。

(1)「憲法59条1項」:
 戦後、衆院で政権与党が2/3以上の議席を占めなかった期間は、1947~2005年と2009~2012年の合計・61年間で、この61年間は、憲法59条1項の定めどおり、法律案は、衆議院の可決と参議院の可決が、共に存在しない限り、法律にならなかった。
 即ち、同61年間、衆議院も参議院も、それぞれ、【相手方たる院(即ち、衆議院にとっては、参議院;参議院にとっては、衆議院)が実質的に提案した法律案を法律にするか否かについて、全く等価の最終的決定権(拒否権)】を有していた。
 同61年間で、衆院の多数意見と参院の多数意見が最後まで対立した重要法案が15個のみ存在した。最終的な決議の時点の直前まで対立し、その最終的な決議の直前に、衆院が、参院の修正案に全て同意して法律となった事例が9個、最終的な決議の時点まで対立し廃案になった例が6個あった。
 憲法59条1項の定めと、上記の9個+6個の合計・15個の実例からみて、民意からの近さの程度を反映する客観的な指標たる、1票の最大較差の値は、衆院、参院両院ともに、同等であることが憲法によって要求されている、と解される。

(2) 「違法判断の基準時」:
 本件裁判の「違法判断の基準時」は、本件選挙の処分時(即ち、投票日〈令和元年7月21日〉)である。

(3) 「平成29年の大法廷判決の判断基準の誤り」:
 平成29年判決が、本件選挙当日の区割りが違憲状態か否かを判断するにあたって採用した、【①投票価値の最大較差の値と②該選挙当日の選挙区割りの最大較差の縮小に何ら寄与しない、「今後における投票価値の較差是正に向けての方向性と立法府の決意」有り、という事情(「国会の努力」ともいう)、の2つの事情を総合考慮して、判断する、判断基準】は、誤った判断基準である。
 なぜなら、「国会の努力」をプラス要素として併せ考慮して、該選挙(1票の較差・1対3.08)は「違憲状態ではない」と判断するからである。

(4) 「不当な判例変更」:
 平成29年判決は、平成26年判決と異なる判断基準をとった理由を判決書に記述していないので、不当な判例変更である。

(5)「本件選挙は違憲又は違憲状態であるとの意見であると推察される45人の憲法学者」:
 これまでに分析した学者52人中、意見が不鮮明な5人を除く45人が違憲状態又は違憲の意見であると推察され、違憲状態でないとの意見であると推察される学者はわずか2人であった。

他。


久保利英明弁護士
(クリックで「弁論要旨」全文へ)
久保利英明弁護士:

民主国家日本の主権者は国民であり、国民の過半数が国会議員の過半数を選任する「人口比例選挙」が憲法の大原則である。
 私たちは「人口比例選挙」の根拠を、
①憲法56条2項(「出席議員の過半数で」「両院の議事を」決定すると定める)
②憲法1条(「主権の存する日本国民」と明定している)
③同前文第1項第1文冒頭(「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」「主権が国民に存することを宣言」し、)
に置き、統治論(国家の統治システムたるガバナンスが正統なものであるべきという論理)に依っている。

(2) 衆院選も参院選も、その一票価値は同一であるべきである。
 佐藤幸治『日本国憲法[第2版]』450頁は、「(この判決は)3倍程度の格差で良いと受け止められる可能性がある。それは、参議院が衆議院と同じような政治的基盤たって同じような機能を果たそうとしているとの認識を前提とするものであれば、憲法解釈上受け入れられるものではない。」と記述する。

(3) 平成27年の改正法では付則7条で「選挙制度の抜本的見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得る」と規定されていた。最高裁はこれを理由に平成29年判決を「合憲」としていたが、平成30年改正は弥縫策そのものであり、付則7条も削除された。抜本的な見直しをなすべきは平成29年(2017年)の最高裁大法廷の合憲判決である。

他。


伊藤真弁護士
(クリックで「弁論要旨」全文へ)
伊藤真弁護士:

 被告の主張する投票価値の平等を後退させる根拠は破綻しており、人口比例原則を後退させる合理的理由が何一つ説明されていないことを裁判所として明確に判断することが、権力分立が機能する国であるための最高裁判所の役割であり、存在意義である。

(1)最高裁判所の役割:本件選挙において、投票価値の不平等ゆえに自分自身の政治的意思を正しく国政に反映させることができなかった少数者の人権を回復することは、最高裁判所の使命である。今回の選挙を違憲無効と裁判所が宣言することは、主権者の多数意思による国家運営という国民主権原理そのものを具現化することにつながり、極めて重要な憲法保障機能を果たすことになる。

(2)参院選挙における投票価値の平等の要請:あらためて平成24年、平成26年判決の判示にある「参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。」という指摘の意味を再確認するべきである。

(3)都道府県単位とすることについて:都道府県単位では地域的少数者の意見を尊重し反映することはできない。北海道内の過疎地域の地域的少数者の意見は、福井県民に比べて0.43票の価値しかなく、十分に反映されていない。
 意見を尊重するべき少数者は、地域的少数者だけではない。性的少数者、貧困にあえぐ少数者、ワーキングマザー、障がい者も健常者に比べて少数者と言えよう。少数意見は審議討論の過程において十分尊重されるべきものであるが、特定の少数意見を尊重するために選挙制度という手続き自体をその特定の少数者に有利になるように歪めるということは、民主主義においてはあってはならない。少数者の声は、どのような少数者であろうとも、等しく国政に反映されるような制度でなければならない。その目的に対して、都道府県単位の選挙制度は何の合理的関連性もない手段といわざるを得ない。こうした憲法価値に従った形で議論を整理して、憲法の他の条項との整合性を保ちつつ、国会の裁量を統制していくことこそが、権力分立制度の下における裁判所の役割なのである。
 そもそも国会は、地域的な課題から離れた安全保障政策や財政経済政策、社会保障政策、教育政策など国家的な課題を議論するべき場である。なぜ特定の地域の住民の声を過大に反映しなければならないのか、その合理的理由は全くない。 

他。


原告本人
(クリックで「陳述要旨」全文へ)
(クリックで「上申書」全文へ)
(クリックで「上申書」資料へ)
原告の鶴本圭子氏:

 「裁判官の仕事は、憲法や法を解釈し、政治がそれらの中で行われることを保障することである。」これは、米連邦最高裁ロバーツ長官の言葉である。

 3倍の投票価値の不平等があった本件選挙は違憲であるとの判決を求めている。なぜなら、”1票の価値が不平等な選挙” は、国民の基本的権利は差別してはならないという、憲法の絶対的な理念に反するからである(平等論)。さらには、”1票の価値が不平等な選挙”では、「国民の多数意見が何かを明らかにする」という、選挙本来の目的を果たせないからである(統治論)。

 平成29年判決が評価した平成27年改正で、宮城選挙区の投票価値は0.51票から0.34票に悪化しており、190万人の宮城県有権者は、前回選挙、本件選挙ともに選挙権を0.34票に差別された。新潟県有権者190万人も0.34票であった。従って、本件選挙を合憲とする理由を、地方利益の為であるとする国の主張に求めることはできない。

 先月亡くなったギンズバーグ米連邦最高裁判事は、判決意見作成にあたって、同僚を説得して一票でも多くの賛成票を得ることに力を注ぐと話している。特に、今回が参院選挙裁判の最後の判断となる裁判官におかれては、そのような説得に力を注がれることを強く希望する。また、もし同僚の説得に失敗しても、反対意見を示し、未来の裁判官を説得されることを希望する。過去の反対意見が、未来の法となり得える。

 裁判官お一人お一人が、また、私たち原告が、明日の日本を、よりよい、より正しい、またより平等な国にできる、国家権力を有している。

他。

国側の弁論要旨書 (全文)PDF

最高裁判決

最高裁大法廷判決期日は、令和2年11月18日(水)午後3時に指定されました。

大法廷判決では、どの裁判官が一人一票に賛成なのか、どの裁判官が一人一票を認めたとは言えないかが明らかになります。

一人一票を望む私達主権者は、この最高裁大法廷判決で示される、一人一票に関する各最高裁判事の個別意見の情報に基づき、次回の国民審査を行うことになります

(「切り抜き」国民審査」とは?)

*林 景一裁判官、 *宮崎 裕子裁判官は、平成30年判決(衆)で、1人1票原則を認められています。

【サポーター活動のご案内 ~ 判決日当日の流れ(予定)】
傍聴できる人数が通常より削減されていますが、感染対策を講じて傍聴が可能です。

当日の予定は今後変更される可能性があります。

当日の予定(暫定案)は、下記チラシをご参照下さいませ。


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